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2009年2月21日土曜日

コアラのデスマーチ

かつて自分も上司だったことがあるし、もちろん誰かの部下だったこともある。むしろハケンをやっている立場においては、全てのプロパーな人々の部下だと思って暮らしてますよ。そのあたり、カンチガイしちゃいけないと思ってますんで。ハケンを長く続けないためにもね。

大企業の中で暮らしはじめて気づいた面白い現象といえば、もうね、そこら中に主任さんがいるんですよ。どこかのグループなんて主任だけで構成されていたりして面白い。この中で誰が「主に任されて」いるんだろう・・・って思うくらいに。

うわさによれば、残業の多い社員は主任になるとか、ならないとか。結果的に残業の旨みは削られるんだけど、でもその上の役職に上がるためには主任経験が必要だったりするので、プロパーさんたちも悩みどころだろうな。主任はイクラの卵の数ほどいるけど、その上の役職になると昇進試験もあるらしく、極端に数が減ってくる。大企業に棲んでいるシャケたちも大変なんだなあ・・・。

結果的にいろんな主任の下で働いてみたけれど、まぁ、みんなソツがないというか、社員として優秀というか、ミスしないというかそんな感じ。大学在学中に一生懸命勉強したのか、それとも社員育成システムが優れていて、社員として優秀にしてしまうのか。

なかなか入社するのは難関だろうから、みんな学生時代はお勉強とかできて、そこそこの大学とか行ったんだろうなあ・・・とか思うけれど、まぁ、それだけで測れないのが社会人の面白さ。

あえて「社員として優秀」なんて書きましたけどね、正直、かなり困った主任さんもいましたね。「技術者としては超ヘボ」な主任の下で働くと死ぬほどココロがさいなまれます。開発の現場がよく分かんない人・・・というか自分で何かを開発した経験すらなさそうな人。というか、私が見た限りでは絶対に開発経験がないな。

だから、たびたび外注さん(といっても関連子会社の開発屋さん)と、その主任さんの間で板ばさみになったな。「それ、言うだけだと簡単そうに見えるんだけど、内部処理は相当アレな感じになってますよー。」「つか、『なんとなく』という理由でそこまで工数かけてやっちゃう判断なんですかね?」「そもそも納期が翌日というタイミングで突然言い出す話じゃないでしょう?」みたいな。

どう考えても開発屋さんのロジックが正しくて、いつまでも無理な要求出して困らせたりしてんじゃねーよ・・・って感じだったもの。そもそもなんでそうなるのか、ロジックを説明しようとしても、聞こうともしないんだもんなあ。理解できるかどうか怖かったのかも知れないけど。

その人の場合は「社員として優秀」だからミスをしたくないのよ。自分の指示ミスとか、判断ミスで停滞が起きちゃいましたとか言えないのよ。ミスしないことだけに全神経を傾けてる感じ。というか、ミスの要因は私じゃないぞ的な。ミスしないこと自体は大事なことなんだけど。そればっかりだと、なんだかなあ・・・という感じ。

そういや、挙句にこんなこと言われたりしたなあ。

「あなたはどっちの立場なんですか?こちらは先方に要求するのが仕事で、向こうはそれを実現するのが仕事なんですよ。こっちはお金を払ってるんだからやるのが当然でしょう!」

あー、ま、それも正しい。一般的には正しく思えなくもない。正しいような気がしなくもなくもない。なくなくなくもない。なくなくなくなくもなくなくも・・・。

「・・・っつか、そんなの正しいわけねーだろーが、この技術オンチ女め!こういう現場の事情とか実装ロジックが分かんないシロウトが、現場を掻き回して休日返上24時間営業のデスマーチなんてものを作り出すんだボケ!テメーがおうちでスヤスヤ寝てる間に、開発者は家にも帰れず死ぬ気で働いてるんだぞ、この人権無視の犯罪者め!そもそも組織の力を自分の力とカンチガイして、強権発動するヤツなんざ人間として最低だ!デスマーチって知ってるか?コアラのマーチじゃねーんだぞ!このスットコドッコイが!」

・・・なんて、もちろん言いませんでしたよ。ハケンですもの。立場というものをよーく知っているつもりでございます。お陰で今でも日銭を稼げておるわけでして。はい。

こういう人も大企業の「上流工程」と呼ばれる場所にいたりするんですよ。あ、今は、お客様窓口方面に飛ばされたみたいですが。

もちろん、開発ロジックが理解できる主任さんとかもいて、そういう人だと、○○と○○と○○で負担が大きそうだから、ここは納期を調整して、ここは前倒ししてもらって・・・と、細かい配慮のできる人もいる。「大企業の対応ってやつは・・・」というよりも、そこは担当する主任さんの力量によってアタリハズレがあるようだ。

ただねえ。いろんな職場を体験するために、プロパーさんを社内でグルグル異動させるのは悪かないと思いますが、システム開発の上流工程に開発のシロウトさんを連れてきちゃあいけませんよ。本人にとっちゃ経験の一種なんだろうけど、そこに付き合わされるSEとかPGとかのITエンジニアは地獄に叩き落されるんだよ。実弾が飛び交う国境の最前線でアイドルが「一日司令官」しちゃうくらいに危険で迷惑な話だよ。

ちなみに「デスマーチ」というのは、IT開発現場に身を置く人なら誰でも知っているネガティブワードで、現代版女工哀史みたいなモノだと思っていただければ、たぶんイメージとしてハズレはないんじゃないかと思います。

上流工程に関わる人は一度くらい「デスマーチ」を体験して、廃人寸前までいった人がやるべきだと思うよ。家には帰れない、まともに眠れない、風呂にも入れない。納期はデスマーチの終焉を示しているはずなんだけど、すこしでもその日が近づいてこないことを祈りながら開発するんだよ。全てをかなぐり捨てて眠りたくても眠れない悪夢。

たぶん眠ったほうが能率が上がるんだろうけど、能率アップした分の時間的損益分岐点は納期を過ぎたあたりなので眠れない。寝た瞬間に取り返せない時間的赤字になっちゃうみたいな。というか、寝たら次に起きる自信がないんですけどみたいな。まぁ、実際には神経が過敏になっちゃってて、寝ようとしても5分くらいで起きるんですけど。

握り飯を食いながら、隣の人がポツリ。「最近、子供が私の目を見てくれなくなってねえ・・・」とか。「最近、カミサンが何も言わなくなってきてさあ・・・」とか。そりゃへこむよね。まぁ、さらにピークになると虚ろな目になってきて会話すらなくなるんだけど。会話がなくなっても黙々と動き続ける状況はすでにマシーンの領域だ。もしくはゾンビか。

デスマーチの恐ろしさはそこだけに終わらない。実際には納期がデスマーチの終焉ではないこともあるんだから。いったんデスマーチにハマリ込むと、納期というのは「部分リリース」に変わることがあって、たいてい至近距離に次の納期が設定されたりして。

その納期の日だけは家に帰って熟睡できるんだけど、また次の納期が迫ってくるという「終わりが見えない」状態がデスマーチの真骨頂。まれに熟睡中に電話で叩き起こされて、朦朧とした意識の中でリリース後に見つかった致命的なバグの説明を聞いたり。

精神力の限界を超えて、死にそうになっている人が作ってるんだから、こう言っちゃいけないのは分かるんだけど、実際問題、バグが載ってくる確率が高くなるのは当然だと思う。

大切なのはデスマーチの恐ろしさを知ること。そして、デスマーチを引き起こさない努力なんだと思う。

戦争を知って戦争を起こさない努力。
デスマーチを知ってデスマーチを起こさない努力。

そして、そろそろIT開発環境を本質的に変えないとね。
そういうのがIT開発現場の常識だから・・・ではヤバイ。

正直そう思います。
人間らしい生活を保証しないと、この業界不人気になるよ。
というか、もうすでにそうなっているとも聞いているけど。

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