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2009年12月1日火曜日

NHKの障碍者番組

最近はテレビ番組をめっきり観なくなってしまったのだが、その代わり、おもしろい番組についてはビデオ録画している。その中で最近、毎週ビデオに録画してみている番組が「きらっといきる」(NHK教育 毎週金曜20:00~20:30 http://www.nhk.or.jp/kira/)。

NHKに受信料を払っていてよかったと本気で思える良質な番組だ。むしろNHKはこれしか観ないから、この番組の視聴料を払っているようなものだ。

この番組のすごいところ。
それは「障碍者に対する変な憐れみがない」ということ。

最近の番組に多いのが「障碍を持っているのにこんなにがんばりました・・・出演陣の全員が涙で感動」というパターン。「たしかにスゲーよなー」と思う人たちが紹介されたりするんだけど、「感動物語」となるといくらか微妙だ。

上から目線で「はい、よくがんばりました」的な気持ち悪さを感じるのだ。だからゲストのコメントでも「障碍を持っているのにすごいですよねー」という結論になっちゃう。

たとえば私はITエンジニアとして生きるために、記憶力やらなんやらという自分の弱点を補う方法をいくらか研究した。そこで仮に「記憶力がたいして良くないのに、そんなに努力するなんて感動しました」なんて言われたとしてもちっともピンと来ない。生きるために必要だったからそうしただけだ。

でも、この番組ではそういうヌルイ意見があまり出ないところがイケている。

たとえば脳性麻痺のお笑いコンビが「僕たちは芸人ですから笑ってほしいんです。障碍者の努力の姿に感動した・・・なんて泣いてほしくない。」などと言っていた。しかし、その翌週の番組で健常者から寄せられたお便りがステキだ。

「泣かれるのがイヤなら芸を磨いてほしい。あなた方は芸人の世界をナメすぎている。人様に笑えない程度の芸を見せて笑ってほしいと頼む姿勢そのものが甘い。芸が陳腐だから笑えなくて泣くしかないのだ。そこに障碍者という言葉を持ってくるのは、あなた方ご自身が障碍にもたれかかっている証拠ではないのですか?」

手厳しいがその通り。そういうお便りが届くのもすごいが、それを番組で正直に紹介してしまう制作姿勢もすごい。率直に感心した。

そのお便りに対して司会者自身も「私は正直な気持ちとして、今、反省しています。私自身も『障碍者』という視点で評価にゲタを履かせていたと思います。正直、お笑いとして純粋に内容を評価すると、まだまだだったと思います。もっとがんばってほしいですね。」と発言してしまう始末。

しっかりとその後のフォローもしている。その二人組のお笑いコンビにちゃんとそのお便りを届けていた。そのコンビは、その意見を踏まえてもう一度「お笑い」に対して最初から取り組み直すんだそうだ。

ちなみに、しばらくは「障碍者ネタ」も封印するんだそうだ。個人的な意見だけど、そこまでやっちゃうともったいないと思う。障碍者という現象がネタ(武器)になるのなら、それはそれで有効に使った方がいいと思うんだけどね。健常者の芸人だって、自分の借金とか離婚までネタにしちゃう人がいるくらいなんだから。

似たような芸風で「ホーキング青山」という芸人もいるけれど、彼くらいにまで突き抜けてしまえば笑える芸人になれると思う。ただ、彼のステージは最高におもしろいんだけど、たぶん放送電波には乗せられないところが弱点なんだけど。トークの8割が「ピー」で消されるだろうから。

この番組の画期的なところは他にもある。脳性麻痺の人をコメンテーターとして常に出演させている点だ。脳性麻痺の程度によっては言葉が話しづらくなる。だから慣れていないと聞き取りづらいこともあって、残念なことに後ろ向きなイメージが定着しがちだ。

実際にはそういうことはなくて論理的な意見に長けている人が多い。でも、脳性麻痺の人に会える機会というのは、普通に生きているとなかなかない。しかし、このように番組でそういう人をコメンテーターに抜擢するというのは画期的だと思う。この人が出演しているおかげで「上から」感が薄れるのだ。

個人的にも助かっていて、昔、聞き取りづらかった脳性麻痺の発音特有のヒアリングがだいぶ楽になった。よく聞き取れなくて「すんません、もう一度お願いします。」と言わなくて済むのはやっぱりラクだ。何度も聞き返すのはやっぱり失礼なような気がするし。

他にも、生活費やら助成金の細かい金額についても公開する懐の深さもいい。そういう現実のデータを知りたいと思っても、当事者にはなかなか聞きづらい話だったりするから。また、多彩な障碍について取り扱うので障碍者の種類を適切に把握するための教科書的な番組といえそうだ。

全体的に明るくて前向きな番組作りにも成功していて、観ていて心理的に辛くなるようなことも少ない。今後もこの番組には注目したい。

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